「スイス探訪」 を読んで

「黒いスイス」の著者である福原氏は、グローバル化の流れに乗ることは、必然で正しい、という前提でした。過去の人権侵害、難民受け入れ拒否、相互監視社会をクローズアップしてスイスの閉鎖的で、保守的な考えが問題であると危険視されていました。「スイス探訪」の著者、国松氏も、スイスの閉鎖的で、保守的な考えがあることを言われています。


2冊のスイスの本を読み比べて違う点はグローバル化に対する考え方です。「黒いスイス」は前述したとおりで、「スイス探訪」では、世界基準にやみくもに合わすべきではない、ということでした。グローバル化がもたらす弊害については、中野剛史氏の本で書かれてあった通り、現時点では一部の国際企業のみが利益を受けるシステムになっており、現実の国際秩序が完全なものからほど遠いと言われています。今回のアルジェリアの事件をはじめ、中国、朝鮮半島の不安定さが示していると思っています。


直接民主制の元で築かれた文化圏を守りつつ、国際協調と合わせていくことが必要、という国松氏の意見に私は賛成です。国際協調はあくまで、双方の利益が同じにして、当然相手の国が信頼できる安全な国で自立した国であることが前提だと思うからです。


歴史の話しになります。過去スイスは建国以来、ハプスブルグ家、フランス軍、ナポレオン、ドイツ軍、国際連盟国際連合と、多くの侵食、統一の力から自国の領土を守りぬいてきました。直接民主制を基礎に、自主独立の精神が養われ、国民が常時意識して生きているからだといいます。「直接民主制を基礎に、自主独立の精神」と簡単に書きましたが、一言で書けるほど安易にスイス人が手に入れたものではないことを、この本を読んで分かりました。


スイスと日本の類似点と相違点について書かれています。ともに天然資源に乏しく、人的資源に頼り、歴史・伝統文化が残る。相違点としては、人口規模。一番には政治に対する姿勢だとしています。自分たちの政治は、自分たち自らが決めるという政治への責任の強さがありす。企業と官僚、官僚のいいなりの政治家に任せる日本とは全く違うと思います。


国松氏は直接民主制による地域主義が閉鎖的な要因を生み出しているのは確かと認めつつ、ヨーロッパ内では閉鎖的だとしても、ヨーロッパ外にはオープンで気質があるといいます。また、外国人の帰化条件は厳しいが、難民の受け入れは積極だということでした。これは「黒いスイス」に書かれていなかった視点でした。


スイスの人口は720万人。26の州。2800の市町村があります。スイスは直接民主制なので、何でも自分たちで決めるという意識が強いそうで、単純計算で1市町村2500人くらいとして、大人たちが1500人くらいでしょうか。街の広場に集まってワイワイ決め事をしている写真が載っていました。連邦制や、地方分権という考え方があるように、霞が関に一極集中するのではなく、もっと国民が政治を意識して、自分たちの生活や土地のことを考えた意見が反映される政治を進めていくことが必要だと思います。


日本と同じように長い歴史がある国で、自然や文化を大切にする気持ちが強い国民だと印象があります。グローバル化の対する課題を、スイスの人はどう乗り越えていくのか、とても興味があります。