「黒いスイス」 を読んで


スイスにも一度も行ったことがありませんが、私はスイスという国が知りたい。日本の国防の考え方を整理する上でスイスがヒントなるかもしれないからです。検索で見つけたのはこの本でした。私自身がいいイメージしか持っていない国なので、逆に悪い面から知る方が分かりやすそうですし、まずはスイスを知る上でおもしろいだろうと思い読んでみることにしました。


理想の国スイス の実態を、ご自身の6年間のジュネーブ特派員時代の取材と実体験から書かれています。内容はスイス批判です。スイス人がいかに人権侵害や差別の意識を持ち続けているか記しています。


前半ではスイスの歴史から、
・移動民族ロマ族の話し
ユダヤ人のパスポートへ識別子「J」の話し
・スペイン民主化戦線で戦ったスイスの義勇兵への話し
永世中立国核武装の話し

後半では、理想の国というのがウソである事例、
・相互監視社会
・ネオナチの増加、民主主義を放置した麻薬政策
・スイス国民党ブロハー氏の意見
これらの引用より、説明しています。


スイス国民、スイス国家の閉鎖的な思想、狭くて古い民主主義社会への固執が、悲惨な過去を生み、人権侵害や、差別につながり、表には中々でないが国民の心に今も残っていると言います。


著者がこの本で最も言いたかったことは、こうだと思います。グローバリゼーションで、異民族異文化が融合していくことが当たり前になってきた時代で、閉鎖的で差別的な考え方や文化がスイスに残っていることは、時代に逆行している。人種差別思想を生み出す温床となっている。だからスイスは理想の国ではないと説明しています。


私は著者が経験され取材された様に、直接当事者の話も聞いていませんし、ヨーロッパの歴史も深く知りません。スイスは2度の世界大戦をど真ん中で経験した国というのは知っています。特に、ドイツとフランスとの大国との戦いを目の前にして、スイスがその中で強国の侵略を受けずに生き延びる手段を模索したはずです。どちらにつくか。どちらにつけば国民が生き残れるか。


私の意見は、著者と違うところがあります。
グローバリゼーションだからといって、手放しで異民族異文化が融合していくことは正しい人類の流れとは思えません。双方がお互いを尊重でき、価値観を共有できてこそ、初めて融合できるのだと思っています。相手が危険な思想、危険な国家であれば言うまでもないと思います。思想や文化を無視して、国と国の交流ができるなんて思いません


著者が実際にインタビューした、スイス国民党のブロハー氏との会話そのものだと思います。ブロハー氏は、こう言ったそうです。「国際的な責任とは、各国が自分自身の責任を果たすこと。他国の援助に頼らないこと。経済的に自立すること。」。政治家が行う中央集権政治では非民主主義だ。村、町、国の単位があるのに、EUにまで加盟すると、フランスやドイツの専制化におかれ、ますます個人の意見が反映されなくなる。


著者が言うように、国益と人道は必ずしも一致しません。その通りだと思います。スイスは自分たちを守ってもらわなくていい。そのかわり誰も守らない。自分は自分で守れと言っていることに繋がっていると思います。自国国益と、他国の人権や命。どちらを守るか。難しい問題です。だがスイスは自国国益を選んだ。それだけだと思います。他国の人権や命を守れとなると、いま世界中の多くの国は、他国の人権や命を無視しているので、黒い**と紹介させることになります。黒いが付かない国などほとんどない様に思います。

スイスを、理想の国という幻想だけで判断するのではなく、スイスという国ができた経緯や、スイス国民の考えた方を知ることができました。スイスは地方分権が進んでおり、地方の役割が大きいということもわかりました。直接民主制の住民集会という、すばらしい政治に対する考えが根付いている文化があるということもわかりました。また、社会性でいうと、閉鎖的、排他的となる面があるということもわかりました。


追記:1/18 国家は暴走する危険がある。これまで国力ある多くの国が自分たちを制御できずに暴走してきました。スイス人、スイス国家に冷酷な一面が一時一部あるにせよあったにせよ、逆に言えばそれはスイス自らの暴走と他国の暴走を防ぐ、限られた方法の一つなのかもしれません。そして少なくとも、誰もが住みたいと思える美しい国が実現できているのであれば、そこに住む国民の不満が増幅する可能性も、それを利用する指導者の台頭の可能性も、少ないのではないかと思います。