「建築家 安藤忠雄」を読んで

正月休みに淡路島のホテルに宿泊し、新年と母親の還暦の祝いました。その宿泊先のホテルの売店で買った本がこれです。このホテル自体が安藤忠雄さんの設計です。もちろん、私は安藤さんという方は、昔コーヒーの宣伝で出ていたということくらいしか知りませんでした。「建築家、安藤忠雄は知っている。。。タバターターバー・・・」のあれですね。もちろん、このホテルが安藤さんの設計であることもその売店でたくさん本が売られていたことで初めて知ったわけです。


このホテル、よく自転車で前を通って概観は知ってはいましたし、一度結婚前に、すぐ隣のレストランでディナー(当時は洒落込んどった)をしたこともありました。綺麗で静観な印象はありましたが、コンクリートベースの建造物が並んでおり、冷たい感じがして、正直言ってあまり私が好きな建物ではありませんでした。本を読み終わってもこのコンクリートの打ちっぱなしの建造物の芸術性は、やはり私には分かりません。


センスのない私ですが感心したのは、安藤さんの建築スタイルです。建築業に掛ける主義とでも言うのでしょうか。彼はコンクリートの建築に、旧い長屋の並ぶ街区の路地空間の温もりを実現しようとするところです。それは時に便利さよりも、季節や気候を感じる事を優先して設計してしまうのです。そして、お客さんにその思いを伝え、頑張って住んでください。と、お客さんにお願いするのです。普通は、どんなお客さんにでも、快適で住みやすい住居を商品として提供することを第一に考えると思うのですが、彼は違っています。敢えて家のど真ん中に、ぱっくり空が見える空間を作ってしまうところです。


もっとおもしろいのは、自分の家に住むお客さんには、覚悟がいると本人が言っているところです。まるで、この車はエアコンも内装も外してる分走りがいいから楽しんでみてっと勧めているみたいなもんでしょうか。さらにおもしろいことに、自分の思いに賛同してくれるお客さんは、変わった人だとも言っています。確かに、家の真ん中にふきっさらし部屋があったら、その空間がもったいないし冬は寒いし。。。覚悟がいるなぁ。でも、安藤さんのすごいところ、本当の建築家は建てた後が大事というように、アフターケアーも欠かさないそうです。


彼のそんな強い思いの根底にあるものは抵抗と挑戦です。高度経済成長の名のもとの乱開発計画、新しさのみに価値を置きスクラップ&ビルドを繰り返す日本の都市開発への、抵抗と挑戦であるそうです。


彼は日本だけでなく、海外の建築の仕事にも関わっています。建築家という職業の面白さは世界中のいろいろな価値観で出会えることだそうです。イタリアは納期を守らない、中国は適当すぎる、とか身を持って感じているんだそうです。ただそれを軽蔑しているわけではない。それぞれの文化を尊重し、その土地にあった建築を考えているんだろうと思います。


時間が経つごとに魅力が増し、自然の一部としてある生活こそが住まいの本質という思いを持った建築家が日本の代表であれば、22世紀の日本の都市は、今以上に歴史や自然を取り込んだもっと美しい都市へと変わっていくのではないかなぁっと、などと、建築のけの字も知らん私が適当に考えました。


大都市の便利さに魅力を感じない私は、そういった安藤さんの建築魂に心を打たれたわけですが、しかし駅近で便利で快適がいいなぁ。


安藤 忠雄
新潮社
発売日:2008-10